紫ではなくて、青

ひとつの古い宝石を見つめて、
この宝石がたどってきた

ロマンのある歴史を
色々と推測して楽しみました。

持ちこんだのは
最近よく寄ってくださる
ご近所さん。

叔母さまの遺産相続を
事務的なところで
皆から任されているそうです。

その一本の指輪は、
銀行の貸金庫の中で、

遺言書と共に
一品だけ入っていたものだったそう。

パッと見は、アメジスト。

これの金額的な価値は?と
尋ねられて

「グラムで計った地金代金です。」
と答えました。

ずいぶんと使い古していたので、
汚れを落とすために
クリーニングをしていたときのこと。

仕上げをルーペで覗き込んだ時に、
ハッとしました。

蛍光灯の明かりの下では、
紫色ではなくて
青色になっていたのです。

「ちょっと外で見てみよう!」

色々と話が深まった彼女と
外にその石を持ち出した途端に、
紫色→青色に変化をしたのです。

宝石の教科書で
色々と調べつつ、

【カラーストーン判定機】といわれる
テスターでもチェック。

もしかしたら
アレキサンドライトかもしれないね
、という話しになりました。

昔のデザイン。

なぜなら大正九年生まれの
叔母様の、

そのお母さんから譲り受けた、
本当に古い指輪だから。

「明治の頃の指輪なんだから、
人間よりも長生きで、

色んな歴史を見てきた
石なんだよね」と彼女が言いました。

自分のルーツを
たどってきたという

ロマンが詰まっている
ストーリーは

彼女にとっては計り知れない
価値だと感じました。

「お仏壇にある家族の集合写真の横を
指輪の指定席にしよう!」

そう言って
帰っていきました。

帰り際、見つけた
箱の底のメモ書き。

書き留めた叔母さまの字でした。